トレーニング取り組みの根底に有る事

1、地面反力と身体パフォーマンス

① 弾むボール? (重力下での身体活動の根本原理)

突然ですが、ここに一つのボールが有ります。地面に対してどの様に投げれば一番高く弾ませる事が出来るでしょうか?

 

地面に力を加えて大きな地面反力を貰いボールを高く弾ませる為にはボールが地面に当たる地点の真上から垂直に投げ降ろし、ボールが地面に向かって進む方向と地面からボールに反発力(地面反力)が返って来る方向を同一ライン上に重ね合わせる(地面に向かって垂直に投げて垂直に弾む様にする)必要が有ると思います。

次に良く弾むボールとはどの様な性質を持ったボールかを考えて見ます。

空気の抜けた軟らか過ぎるボールや古く成って硬化したボールは高く弾んでくれません。

一般的に考えて、高く弾むボールは適度な柔らかさと反発力を兼ね備えた弾力性の有るボールです。

 

日常生活動作を楽にしたり、スポーツ競技動作のパフォーマンス向上(パワーアップやスピードアップ等)の取り組みの方向性も基本的な原理や考え方はボールを高く弾ませる方法と同様のイメージです。

地面に垂直に力を伝え、力を伝えた方向と同一ライン上で大きな地面反力を得る事が基本で、大きな地面反力を得た後に慣性力(例=歩行動作、走動作中の進行方向に働いている勢いの力や、野球のピッチングやバッティング、ゴルフのスイング動作の様に軸脚の作用で移動している身体に前足でブレーキを掛けて得られる身体が進行方向に飛び出す様な勢いの力等)を利用して股関節の動かし方(方向転換する動き)等で様々な角度や方向、高さに弾む(移動する)事が人間の動作の様々なバリエーションや展開と言うイメージです。

 

硬すぎて弾まないボールは柔らかくする必要が有ります。人間の動作に例えれば身体を背骨(胸腰椎移行部=胸椎の11番から腰椎の1番までの間の背骨の可動域が大きく丈夫な構造の部分)を中心としてバネの様に使える筋肉の柔軟性が不足している様な状態、イメージです。

背骨をバネの様に使う為には身体の構造上、肩甲骨周辺や股関節周辺に高い柔軟性が求められます。

ジムではマシーントレーニングでその周辺の柔軟性強化に取り組んで頂きます(身体を解す取り組みに成りますので首凝り、肩凝り、腰痛、膝痛等の改善にも繋がります)。

空気が抜けて柔らかすぎて弾まないボールは空気を入れて弾力性を増す必要が有ります。

人間の動作に例えれば柔軟性が有っても地面反力に負けて力を受け止め切れない筋力が不足している様な状態、イメージです。

ジムではマシーントレーニングで広背筋や殿筋群、ハムストリングス等を中心とした体幹部の筋力強化に取り組んで頂きます(力んで力を込める様な一般的な筋トレとは異なりますのでトレーニングの内容はトレーナー相星へご相談下さい)。

(動作から生み出されるパワーの強化と同様にスピードの強化にも大きな地面反力を得る事が前提と成ります=エンジンパワーが大きい自動車はスピードが出せる事と同様なイメージです/爆発的に飛び出す陸上競技スプリント種目のクラウチングスタートの様なイメージです)

 

② 大きな地面反力を得る為の技術(身体の使い方、軸の形成)

 

地面(床、マット、陸上トラック、雪面etc.)に力を加えロスなく最大限に地面反力を貰う為にはボールの例でご説明させて頂いた様に力の受け渡しを垂直な軸の同一ライン上で行える技術(身体操作、動作フォーム等)が必要に成ります。

例えば、当ジムでトレーニング動作としてご指導させて頂いている脛の骨を地面に対して垂直にポジショニングして接地するフラットタッチダウン動作や、脛の骨と大腿骨を垂直または鉛直線上に配置して軸を形成するスリージョイントインライン、足底のニュートラルロードライン(薬指のライン)の使い方等もその為の技術です。

(陸上競技のスプリント種目の様に極力短い接地時間で空中に飛び出し大きな地面反力を得る身体操作も、野球のピッチャーの様に接地時間を長くして移動距離を大きく稼ぎながら大きな地面反力を得る身体操作も垂直に地面に力を伝え同一ライン上で地面反力を貰うと言う点に於いては基本的に同様の技術で有りバリエーションの違いと言う事に成ります)

地面に垂直に力を伝え、力を伝える方向と同一ライン上で地面反力を貰う為には基本的に股関節から上に位置する上体も垂直な姿勢の軸を形成する必要が有ります(身体を移動させる場合姿勢の軸は移動方向へ傾きますが、例えばオリンピックの陸上競技のスプリント種目でメダル争いをしている様なレベルでも、クラウチングスタートから起き上がった後の姿勢の軸の傾きは頭の位置が2センチ前後進行方向へ移動している程度です=極力垂直なライン上で力の受け渡しをしたい一つの現れです/カール・ルイスやリロイ・バレル等を育て上げた陸上競技界の名伯楽トム・テレツコーチは垂直な接地を説いています)。

身体の歪みや部分的硬さで正しい姿勢が取れない方が多くいらっしゃいますのでジムではマシーントレーニングで身体を解し整えて頂き、正しい垂直な軸が形成出来る姿勢作りに取り組んで頂きます(重力に対し筋力では無く骨の配列を揃え骨格で身体を支える姿勢を作ります=首凝り、肩凝り、腰痛、膝痛等の改善にも繋がる取り組みに成ります)。

 

③ 軸の形成に関係する身体操作技術の一例

(フラットタッチダウンにおける足底の接地角度)

 

 実際のフラットタッチダウン動作では足底は完全に水平ではなく微妙に傾斜して接地(着地)させ足首の機能も引き出しています。

個人差は有りますが歩行動作で有れば体側側から見てくるぶし周辺から接地する為爪先側が若干上がって後から接地します。

逆に陸上競技のスプリント種目や球技や格闘技の素早いステップワーク等の局面で有れば前傾して姿勢の軸が前方に傾く事が多いので、若干爪先(母指球)側が先に接地し踵側が後から踏み込まれる形に成ります(母指球から接地しても踵を浮かせたり母指球を強く使う訳では無く、パフォーマンスの高いトップ選手の多くは足首の力を抜き足底を柔らかく使っています)。

相撲等は中庸でほぼ水平な接地(ニュートラルロードラインから接地=すり足)を多用します(相撲の四股踏みトレーニング等は正にフラットタッチダウン動作そのものです)。

フラットタッチダウン動作はふくらはぎとアキレス腱を一体とした筋腱複合体のバネや、足の甲のアーチの機能も最大限に引き出します。

疲れ辛く、膝下の故障が少ない動作で有りながらパフォーマンスの向上を実現します。

 

④ 軸の扱い方に関連する身体操作技術の例

(地面反力を上手に捉え逃がさない為の下肢の扱い方のポイント)

 

 野球のバッティングやテニス、ボクシング等で軸脚を曲げて構えている様な場合、動作の中

盤まで軸脚の膝は残して置き早期に身体の内側へ入れない様にします。→軸脚の膝が内側に早期に入ると地面反力で得た力が逃げ身体の連動性が失われます。その結果、バットやラケットを振る腕やグローブを着用した拳等を加速させる事が難しく成ってしまいます。

 

 ゴルフスイングや格闘技のパンチ動作の動作後半、軸足の荷重を反対脚へ移すフェーズ(場面)で軸脚の膝を反対脚(前脚)の膝へ寄せながら母指球を中心に踵を上方向、または、身体の側方へ外します(軸脚股関節を伸展、または、内旋させる)。→動作後半踵を上方向や側方に外して軸足股関節を伸展及び内旋させられないと地面反力で得た力を動作の後半まで伝え切れません。

 

 ムエタイ(格闘技)の蹴り動作で動作中盤から後半に掛けて軸脚の膝を完全伸展させ(真っ直ぐ伸ばし)、スリージョイントインラインの軸を形成し、ニュートラルロードラインに加重して軸を傾ける動作のみ(膝を曲げない=膝を使わない=つっかえ棒で骨盤を押す様なイメージ)で身体(骨盤、蹴り脚)を前方、側方、後方等へ運び蹴り脚(相手を蹴る足)の蹴る動作に繋げます。→身体の移動中に軸脚の膝が曲がったりニュートラルロードラインから荷重が抜けると地面反力で得た力が逃げてしまい蹴り脚に力を伝える事が出来ず、蹴り脚の筋力だけを使った威力のない蹴りに成ってしまう傾向に有ります(低い場所を蹴る蹴り他例外も有りますが紙面の関係が有りますのでまたの機会にご説明させて頂きます)。

 膝を伸ばし切り完全伸展させた軸脚で身体を運ぶ動作は相撲等の前方へ押す動作や野球のピッチング動作等にも応用して頂けます。

 

今回は主に地面反力を効率よく得る為に地面に対して垂直方向に形成する軸に関してご説明させて頂きました。

実際の日常生活動作やスポーツ競技動作に於きましては更に軸が形成された後の細かな身体の扱い方や、水平方向や空中(上方)方向への推進力やスピードを得る為の軸(傾斜した軸)の形成や扱い方等が必要に成って来ます。

また、形成すると動作的に不利に成ってしまう間違った軸のお話しもございますので次の機会にご説明させて頂けたらと思います。