自然は曲線を創り、人間は直線を創る

 

 

2024年パリオリンピックの日本国内予選、陸上競技の100メートル走で、国内のトップスプリンターを抑え、準決勝まで進出された広島県の女子中学生がいらっしゃいました。

頭を左右に揺らし背骨をうねらせながら独特なフォームで走る彼女。

身体の中心に軸を形成し軸をブラさない様に走る選手等と比較され、汚いフォームと批判される事も過去に有ったそうですが、個性を大切にし、自分らしく有りたいと強く願い、フォームを変える事なく現在に至るそうです。

私個人はそのフォームを拝見して、陸上競技100メートル走の世界記録保持者ウサイン・ボルト選手の走りを真っ先に思い出しました(ボルト選手が背骨をうねらせながら走る理由は脊柱側弯症と言う背骨が曲がっている持病が大きく関係をしていると言われていますが、脊柱側弯症と走りの因果関係についてのご説明はお話を複雑⦅卵が先か鶏が先か的な議論⦆にしてしまいますので、今回は割愛させて頂ければと思います)。

 

特に走る事についてはスポーツ競技の基本とも言われていますし、その中には様々な競技に応用出来るヒントが多く含まれています。

当施設のトレーニングの方向性ついて知って頂く意味でも良いテーマですので、今回はスポーツ競技のパフォーマンスの向上や、身体の左右の歪みに起因する、腰痛等身体トラブルの改善(セルフ整体)にも繋がる背骨の動きにまつわるお話しをさせて頂きたいと思います。

 

解説の為には当施設で提唱、採用している複数のトレーニング概念が必要と成ります。

医療の分野でも用いられている歩行動作の身体重心位置の運動を倒立振子で表現する概念。

動作中下肢で精緻な軸を形成し地面反力を効率良く利用する概念。

背骨を胸腰椎移行部を中心としてバネの様に使い全身を連動させて地面反力(床反力)からパワーを生み出す概念。

以上三つの概念については既にお話をさせて頂きました。

今回はそれらに加え、神経筋制御機能の概念(健康な人で有れば誰もが身体に備わっている機能=活動している筋肉と拮抗する⦅反対の働きをする⦆筋肉の活動を抑える相反抑制機能や、受動的に伸ばされた筋肉を加速的に短縮させる伸張反射機能等)。

更に、動作(歩行)時の身体重心位置の移動(落下運動)をサイクロイド曲線(最速降下曲線)上での移動に近付けて行く当施設の中核に有る概念(取り組み)等にも触れながら、女子中学生とウサイン・ボルト選手の走りについて解説をさせて頂きたいと思います。

 

*当施設では固定的な概念に囚われる事を避ける為に、多角的な視点から様々な概念を用いて動作を観察しています。また動作を観察している時間軸上で、提唱、また採用している概念同士に矛盾や対立が生じてない事を前提とし、実証、確認を行っています。

 

当施設は日常生活動作を楽にしたり、スポーツ競技パフォーマンスの向上等を目的の中心に置いているトレーニングジムです。

いきなりですが日常生活動作やスポーツ競技パフォーマンスの本質とはいったい何処に有るのでしょうか?

当施設では身体の移動と考えています。

当然の事ですが、身体を移動させる事が出来なければ、学校へ通って勉強をしたり、通勤してお仕事をする事も、スポーツ競技動作や、ご家庭でのお食事、ご入浴等を始めとした日常生活活動を行う事も不可能です(身体を移動させる事が出来ないと言う事は寝たきり状態と言う事です)。

では更に、身体の移動の本質とはいったい何処に有るのでしょうか?

当施設では身体重心位置(合成重心=成人男性で有れば静止、起立した姿勢では第二仙椎の前方⦅お臍の下⦆辺り/動作で姿勢変化が起こった場合には上半身重心と下半身重心を直線で結んだその中間点/性別や年齢、その他により個人差が有ります)の移動の効率に有ると考えています。

当施設ではこの本質で有る身体重心位置の移動の効率に拘っている訳ですがそこには科学的(物理学的)な理由(根拠)が存在しています。

 

以下、お話しが飛躍してしまい、抽象的には成ってしまいますが、当施設のトレーニングの方向性をイメージして頂ける様なお話しに成るのではないかと思われますので、お付き合い頂けたらと思います。

 

 毎年の様に目まぐるしい速度で気候(自然環境)が変動しています。

この文章を読まれている皆さんの中にも、適応出来ずに体調を崩されている方がいらっしゃるかも知れません。

私達が普段使用、また利用している自動車は、環境問題に端を発した転換期に有り、現在自動車産業界はEV化(電動化)の波に揉まれています。

実は今から50年程前にも現在と似た様な状況が有った事を皆さんはご存じでしょうか?

当時世界最大の自動車市場で有ったアメリカ合衆国で、マスキー法と言うクリアーをする事が不可能と言われた厳しい自動車の排気ガス規制法(排気ガスに含まれる有害物質をそれ迄の10パーセント以下に削減させる法律)が制定された事が有りました。

世界中の自動車メーカーがこの厳しい排気ガス規制法をクリアーする事にチャレンジしましたが、世界で初めてこの排気ガス規制法をクリアーしたのはアメリカやヨーロッパの歴史の有る大きな自動車メーカーではなく、当時は未だ自動車後進国で最後発の日本の小さなメーカーで有った本田技研工業でした。

多くの自動車メーカーが発生した排気ガスを触媒装置(エンジン外部に有る排気ガスを浄化する装置)で処理する方法(対処方/後処理)で研究を進めたのに対し、本田技研工業はエンジン内部の燃焼効率(ガソリンを燃やし切り有害物質を発生させない方法=ガソリンと空気の理想的な燃焼状態を求める方法)を追求する本質改善で研究を進めたそうです。

本田技研工業以外の多くのメーカーが本質改善を避け対処法で研究を進めた理由は、本質改善にはそれ迄の蓄積を白紙に戻してエンジンをゼロから設計し直したり、実証実験等トライアンドエラーの労力も非常に大きく、より困難な取り組み方法で有ったからだと言われています。

 本田技研工業は自らその困難な取り組み方法でチャレンジしたそうです。

 燃焼効率の追求は排気ガスの浄化だけではなく、エンジンパワーや燃費の向上等にも繋がり失われる物がなかったそうです。

 本田技研工業はその後、自動車レースの世界最高峰のF1に復帰し数多くのタイトルを獲得する事に成りますが、本質の効率を追求する姿勢がゲームチェンジャーと成り得る様な技術やシステムを多数創出し、タイトル獲得の大きな原動力と成ったそうです。

 

 お話しを本田技研工業さんからトレーニングの方へ戻します。

 

実は人のトレーニングに於いても本質の効率を追求する方向性でトレーニングが出来ますと、失われる物がなく、筋出力、身体の柔軟性、心肺機能、脳や神経系統と身体の協調性(神経筋制御機能)、その他様々な能力や機能が同時に向上(改善)する事に成ります。

(本質の効率が改善される方向性のトレーニング動作に様々な身体機能が呼応し賦活化⦅活性化⦆するイメージです/その延長線上で、特定のスポーツ競技で個別⦅特別⦆に要求される様な能力を、その部分に特化した強化的メニューで補う様な取り組みは勿論有り得ます)。

 

 自動車のエンジン性能の本質がエンジン内部の燃焼効率に有るとしたら、人の身体能力の本質は身体重心位置の移動の効率に有ると当施設では現時点で捉えています。

 

ここで身体重心位置の移動の効率について考えてみます。

仮にA地点からB地点迄身体重心位置を移動させる事とします。

 その際に効率を追求する意味で、最大の加速度を得て最短時間で移動させる事が出来る方法を探る事にします。

 

以前、人の歩行動作やスポーツ競技動作の身体重心位置の移動は倒立振子運動(掌に棒を立てて、棒が倒れた方向へ掌を移動させてバランスを取る遊びの様な運動=倒れて行く棒の先端が人の身体重心位置で、移動する掌側が脚部や股関節のイメージです)で表現出来ると言うお話しをさせて頂きました。

 ここでは倒立振子運動で例えられる身体重心位置(倒れる棒の天辺付近)の移動の軌道に注目します。

 今回は、移動する(落下運動する場面の)身体重心位置の軌道を、滑り台を転がり落ちるボール(正しくはボールの中心)の軌道に例えます。

A地点は滑り台のスタート地点で一番高い所、B地点は滑り台のゴールで一番低い所です。

皆さんはA地点とB地点をボールに最大の加速度を与えて最短時間で到達させる為にどの様な軌道で結ばれますでしょうか?

A地点とB地点を垂直に結び、落下する方法が重力加速度を最大に得て最短距離で一番早く到達する方法ですが、人間の動作は特殊な場合を除き水平方向への移動距離(並進運動)が有りますのでこれは考えない事にします。

それではA地点とB地点を最短距離で結んだ直線でしょうか?

A地点から垂直に落下した後、直角に方向転換し、B地点迄水平に移動した場合はどうでしょうか?

真円の様な曲線ではどうでしょうか(真円も上下が逆様の二種類が有ります)?

または、楕円でしょうか?…

実は、数学、物理学的には既に解答が存在していて、ボールに重力が働いて転がり落ちる様な場合は、サイクロイド曲線(最速降下曲線)と言う図形(曲線)で作られた滑り台がボールを最も加速させ、最短時間でゴールへ到達させる事に成ります(お話を難しくしない為にボールに働く空気抵抗や摩擦力は無視しています)。

(サイクロイド曲線を数学的に難しくご説明させて頂きますと、円周上の一点に印を付け、その印を付けた円を定直線上で転がした時に円周上に付けた印が描く軌跡と言うご説明に成りますが、これ以上の文章でのご説明は複雑に成ってしまいますので他をご参照頂く事をお勧め致します)

サイクロイド曲線で作られた滑り台の特徴を簡単にご説明させて頂きますと、スタート地点からの滑り始めが急激に落下するカーブを描く曲線の滑り台です(ボールに与える事の出来る最大加速度と最短移動距離とのバランスから導き出された曲線です)。

サイクロイド曲線で作られた滑り台には興味深い性質も有り、ボールをスタートのA地点を含め、どの位置(高さ)から落としても一番低いB地点のゴールへ到達する迄に掛かる時間は全て同一です(数学や物理学の分野では等時性と言う言葉で説明されています)。

垂直落下を除きますと、身体重心位置をサイクロイド曲線上を移動(落下運動)させる方法が、最大に加速度を得て最も速く移動させる事の出来る方法ですので、スポーツ競技でのスピードとパワーの双方を考える上では非常に有利です(加速度を利用してパワーを発揮する方法が地球上で重力を受けている人の動作の基本に成ると言うお話も以前させて頂きました)。

 手先にバットやラケット、ゴルフクラブの様な重さの有る道具を持って振る様な場合も、道具の重い重心位置付近を、サイクロイド曲線上で移動(落下運動)させる様な扱い方が結果を出す為には有利で、競技技術を模索する上での現時点での一つの解答に成るかと思われます(振り始めがコンパクトな円運動に成り、慣性モーメント⦅振り回す為に必要な力⦆が小さく、身体が楽で、道具を振るスピードや体力の面から考えても非常に合理的です)。

 

心肺機能や筋持久力の面から考えましても、サイクロイド曲線上で身体重心位置を落下させる方法が、現時点で考え得る最も効率が良い方法ですので、実現出来れば非常に有利です。

(持久力の部分に関しましては、当コラムの他でもお話しをさせて頂きましたので、詳細はそちらをご参照下さい)

 

どの位置(高さ)からボールを落としてもゴール(一番低い位置)へ到達する迄に掛かる時間は全て同一と言う特性(等時性)はスポーツ競技に於いてはどの様な意味が有るのでしょうか?

 

サイクロイド曲線の滑り台のゴール(一番低い所)をスポーツ競技でのボールやゴール、対人競技の競技相手に置き換えてみます。

 転がり落ちるボールは競技をしている自分自身や自身の持つラケットやバット、ゴルフクラブ等の道具に置き換えます。

 感の良い方はもうお気付きだと思われます。

 サイクロイド曲線上で身体重心位置を移動(落下運動)させる様な動作や、道具の重心位置付近を移動(落下運動)させる様な扱い方が出来る選手は、動いているボールや、自身と位置関係が常に変化しているゴール、また競技相手等に同様なタイミングの取り方で自身の動きや道具の動きを合わせる事が可能に成ると言う様な事が起こり得ます。

その一方で、相手側がサイクロイド曲線とは無縁な動作や道具の扱い方をすると仮定した場合、相手側がこちら側にタイミングを合わせ難く成ると言う様な事も同時に起こり得ます。

 

同時に始動しては先を越され、先に始動しても追い着かれ、タイミングも全て読まれ、コントロールされ続けてしまう。

闇雲に取り組んで(努力して)いては、その様な事も起こり兼ねません。

 

(サイクロイド曲線の軌道を描く振子は振れ幅に因らず正確な時を刻みますが⦅どの高さから振っても最下点迄到達する時間は同一⦆、スポーツ競技等に於けるリズム⦅武道等で言われる拍子、更に広義で解釈した場合にはスポーツ競技等でのルーティン⦆が大切と言われている所以です)

 

 バスケットボールの選手が動作スピードやジャンプ力の向上とともにシュートの成功率(正確性)が向上する。

ゴルフの選手が飛距離の向上とともにボールをクラブヘッドの芯で捉える確率が向上し、スイングも安定(再現性が増す)、更にラウンドで長い距離を歩いても疲れ難く成る。

空手の選手が突き蹴りのスピードや威力が向上するとともに、スタミナ(持久力)もアップし、更に突き蹴りを相手に当てる距離感やタイミングも掴みやすくなり、同時に相手の距離やタイミングを外しやすく成る。

以上は仮説から導き出された机上の空論ではなく、当施設で実際にトレーニングに取り組んで頂き、現実に現れている結果(会員様ご本人談)ですが、そこには確かな科学的(物理学的)理由(根拠)が存在しています。

 

スポーツ競技で結果を出す為に必要とされる身体能力は、部分的に突出した一つの能力だけではなく(例えば筋力のみ/筋力が必要ないと言う意味のお話しでは有りません)、総合的な能力です(日常生活動作を楽⦅スムーズ⦆に行える身体を作って頂く上でも考え方は同様です)。

 

メジャーリーグで活躍をされている大谷翔平選手のバットスイングの軌道は、実はサイクロイド曲線を描いていて(スイングスピードやパワーを求め、速度や軌道の異なる様々なボールにタイミングを合わせる事にも非常に有利です)、野球に詳しい方達の間では既に知られているお話しです。

既に現役を引退されたイチロー選手も、ゴルフスイングの様に上からバットをインサイドアウトの軌道で縦に落とす様な素振りをご自身の基本とされていましたが、あの様な素振りを基本とされる事は、サイクロイド曲線上でバットを操作する上で非常に有利です。

また、現在メジャーリーグで大谷翔平選手のチームメイトとして活躍している山本由伸投手等も投球動作でマウンドを移動(落下運動)してして行く過程で、身体重心位置がサイクロイド曲線に近い軌道を描いています(球速を求めたり、ボールのコントロール能力、相手バッターのタイミングを外させる事等にも有利に働きます/山本由伸投手の場合は小柄な体格から来るパワー不足を補う為に、身体重心位置がサイクロイド曲線上の軌道を移動⦅落下運動⦆する手前の局面で、軸足で長め⦅多め⦆に地面反力を受ける動作に特徴が有ります=専門的な言葉でご説明させて頂きますと、重力加速度⦅落下運動⦆のみに着目、また依存した⦅頼った⦆運動ではスポーツ競技で大きなパワーやスピードを生み出す事は難しく成るのですが、この辺のお話しも機会が有りましたらまたさせて頂ければと思います)。

 

続いては、当施設で行っているトレーニング(トレーニング動作)とサイクロイド曲線上の身体重心位置の移動(落下運動)との関連性ついて具体的に見て行きたいと思います。

 

サイクロイド曲線上で身体重心位置や道具を移動(落下運動)させる為には、落下運動の邪魔をしない為に相応なトレーニングの量と相当な技術が必要とされますが、強すぎる意識や身体の力みは、サイクロイド曲線上から軌道を逸脱させてしまう大きな要因です。

動作時の強すぎる意識やそこから生まれる身体の力みには、無意識下の身体の機能(自然な働き)が引き出されていない事や、後天的な意識の癖(裏を返せば癖を意識出来ていない事)が大きく影響をしていますので、自身の意識で能動的に修正をする事は、通常は容易な作業では有りません(一般的に広く普及している筋力トレーニング等はその様な所に焦点を当てていませんので、自重、フリーウエイト、マシーントレーニング等を問わず、強く意識しながら力を込め続ける様な物が主流です⦅意外かも知れませんが、伸ばした後に一定時間動きを止めて静止させる様な静的ストレッチトレーニング等も実は同様で、神経学的には身体を力ませる動作と定義出来ます⦆)。

 

当施設のトレーニングでは特殊な設計のマシーンの働きにより、脳や神経系統が無意識下で身体をコントロール(支配)している様々な仕組み(機能)を引き出しながら、意識的な癖を修正し、それらの要因を排除しています。

(特殊な設計のマシーンの働きにより受動的⦅無意識的⦆に筋肉を伸張⦅伸ばす⦆させ、加速を伴う短縮⦅無意識的な反射=神経の伸張反射機能⦆を引き出す事で、意識的な強い筋収縮を伴わずに大きな筋出力を引き出しています⦅専門的な言葉でご説明させて頂きますとプライオメトリックストレーニング等と同様の理論⦆、また活動している筋肉と拮抗する⦅逆の働きをする⦆筋肉⦅例=肘を曲げる様な動作で有れば力こぶの筋肉と二の腕の裏側の筋肉の様な関係性⦆が同時に強く収縮する様な状態も身体の力みの一種ですが、マシーンの働きや以前にご紹介させて頂きましたスパイラルムーブメント⦅肩関節や股関節の捻り動作⦆等様々な動作法を駆使する事により、活動させたい筋肉と拮抗する働きをする筋肉を弛緩⦅リラックス⦆させ、過剰な活動(力み)を抑える身体の機能⦅神経の相反抑制機能⦆も引き出しています)

 

歩行動作や日常生活動作、スポーツ競技動作の本質は視点を変えますと、脚から脚への荷重の移し替え(体重移動)です。

身体能力を最大限に発揮すると言う一つの観点からお話しをさせて頂ければ、脚から脚への荷重の移し替えの中で、身体重心位置の移動の軌道で如何に落差が有り、しかも滑走距離の長いサイクロイド曲線を描けるかと言う取り組みが、一つの方向性に成るかと思います。

 

当施設のトレーニングでは動作時に骨格を利用して効率良く地面に力を伝え、強い反発の力(床反力)を貰う為に下肢で精緻な軸(スリージョイントインライン=大転子、膝関節の外側、外くるぶし⦅薬指のライン⦆を同一ライン上に揃えた軸=軸脚)を形成する事も以前ご説明させて頂きました。

歩行動作や走動作で地面から大きな反発の力を貰う為には、軸(軸脚)の真上近くに頭部や上半身の重心位置(第7~9胸椎=鳩尾周辺)を位置させて体重を掛ける様な動作が出来れば効率的には有利です。

(人の動作は立体的ですので身体の側方から見て⦅前後方向⦆は勿論の事、前方から見て⦅左右方向⦆もそれは同様です)

当施設のトレーニングは、片手、片脚でマシーンを操作する種目が多い事も特徴です。

トレーニングをしている手足の出力が始る前のタイミングで、頭部と体幹部を出力する手足の方向(身体の前方から見てトレーニングをしている手足の方向=左右方向)へ背骨を側屈させながら柔らかく寄せ、手足(体積や面積が大きく出力の高い筋肉が集まる肩甲骨周辺や股関節周辺)に荷重する動作に大きな特徴が有ります(当施設のトレーニングは体幹部の柔軟性向上や関節可動域拡大に非常に卓越していますが、一時期流行りました体幹部を固める様なトレーニングは真逆の考え方や方向性で、体幹部の大筋群を硬くしてこの様な背骨の柔らかい動きを妨げてしまいます)。

 

以前お話しをさせて頂きました、胸腰椎移行部(胸椎の11、12番と腰椎の1番=背骨の屈曲や伸展、捻り動作等の中心と成る本来は可動域が一番大きく丈夫な部分)を中心として背骨をバネの様に使い地面反力から得た力を増幅させて手足に伝える様な動きを、立体的(実動作に近い形)に表現させて頂きますと、身体の進行方向で有る前方への動きとともに脚から脚への左右への荷重移動時の動きも表現されて、背骨がうねる様な動きが表現される事に成ります。

 

この背骨を側屈させて軸脚側へ寄せ、荷重する方向へ向かったり、荷重切り替え時に軸脚側から遊脚(踏み出して空中に向かう脚)側へ離れて行く動きがウサイン・ボルト選手や広島の女子中学生が走動作で見せた背骨をうねらせる動きです。

 

 人は脊椎動物に分類されています。

魚類、両生類、爬虫類、鳥類、そして四足歩行の哺乳類達。

彼等は直立二足歩行の私達人類と比較して、動かす方向や動きの大きさ、また動きの速さ等に違いは有りますが、背骨を上手にうねらせる事で移動、また動作しています。 

背骨をうねらせる動きからもたらされる彼等の高い身体能力は驚異的です。

背骨の動きが悪い脊椎動物を想像してみて下さい。

例えば、当施設にはメダカ水槽が設置して有ります。

背骨の動き(泳ぎ)が良くない個体には私も精一杯手を尽くすのですが…

残された時間は余り多くはなく、私自身申し訳ない気持ちで胸が一杯に成ってしまいます…

 

今年(2024年)はオリンピックイヤーでした。

陸上競技女子やり投げ金メダル獲得の北口榛花選手や、男子レスリング・グレコローマンスタイル60キロ級金メダル獲得の文田健一郎選手には、私も大会前から注目をさせて頂きました。

お二人は世界のトップ選手が集った今大会のそれぞれの競技の中でも特に飛び抜けた存在で有ったと思われますが、背骨(胸椎と腰椎の移行部)の可動域が非常に大きく、且つ動きも非常に柔らかい事は大きな身体的特徴で有ったと思います。

皆さんはご観戦されましたでしょうか?

 

 今回のお話しの本題は更にここから先に成ります。

 

皆さんに注目して頂きたいのは人が背骨をうねらせる様に動作した時の骨盤の動きです(肩甲骨周辺や背骨⦅胸椎と腰椎の移行部⦆及び股関節周辺に健全な筋肉の柔軟性や関節可動域が有る事を前提とした上でのお話しです)。

 

人が背骨をうねらせる様に動作する場合の主動筋(主な働きをする筋肉)は広背筋(背中の逆三角形の筋肉)です。

背骨をうねらせる様に動作する為には背骨を境として左右の広背筋を真逆に活動させなければ成りません。

例えば、右脚側へ背骨を倒し側屈させる様な動作では右側の広背筋を活動、短縮させるのと同時に左側の広背筋を柔らかく伸ばす為に弛緩(リラックス)させなければ成りません。

この場合、右側の広背筋と左側の広背筋は拮抗(反対の働きをする)関係と言う事に成ります。

片側の広背筋が活動して短縮している時に反対側の拮抗関係に有る広背筋の働きを抑制する(弛緩させる)無意識下の脳や神経系統の仕組み(相反抑制機能)が実は我々人の身体には備わっています。

当施設のトレーニング法やトレーニングマシーンは、相反抑制機能を引き出す事にも非常に卓越しています。

広背筋は、上半身から下半身迄非常に広い範囲の関節を跨いで骨格に付着している筋肉で、上腕骨の付け根付近から背骨、更に骨盤の上端部迄を繋いでいます。

この付着位置の関係で、背骨をうねらせる様に動作さた場合、広背筋が骨盤の片側を挙上する(持ち上げる)様な回転運動が引き出される(現れる)事に成ります(背骨のどの様な動きや動きのタイミングで、骨盤のどの様な回転運動が引き出されるかはまた別の機会にご説明させて頂ければと思います)。

 

骨盤の片側が引き上げられる回転運動により、骨盤内の中央付近(第二仙椎の前方辺り=お臍の下辺り)に有る身体重心位置も回転半径の小さな円の軌道を描きながら高位置へ引き上げられる事に成ります。

この回転半径の小さな円の軌道がサイクロイド曲線の滑り台で例えた滑り始めの落差の大きい軌道(カーブ)に繋がって行きます(回転半径が大きく成ると落差の小さい軌道に成り、重力加速度の利用と言う観点からは不利に成ってしまいます)。

 

サイクロイド曲線上で身体重心位置を移動させ、身体能力を最大限発揮する為に要求される軌道の滑走距離(並進運動)の長さに関しましては、股関節の柔軟性や関節可動域(動きの自由度)と共に、身体バランスや神経筋制御機能等の関係で(人の動作は多くは立位で行われる理由から)、軸脚と反対側(踏み出した脚側=ステップする脚側)の肩甲骨周辺の筋肉の柔軟性や関節可動域が大きく求められます。

スポーツ競技で高いレベルでプレイする為には、肩甲骨が背中の皮膚を突き破って飛び出さんばかりの柔軟性が必要と成りますが(一時期一世を風靡した中国武術俳優のブルース・リーが映画の中で見せた様な、またはそれ以上の状態/通常のストレッチトレーニング等でこの強度の高い柔軟性を引き出す事は容易な作業ではないと思われます)、当施設のトレーニングでは特殊な設計のマシーンを使用する事によりその様な強度の高い柔軟性を引き出す事を可能にしています。

 

背骨をうねらせる動作が骨盤の片側を引き上げる回転運動を引き起こし、身体重心位置をサイクロイド曲線上で移動させる様な歩行動作やスポーツ競技動作を生み出します。

人の身体にはその為の機能が全て備わっており、この事実には驚きを隠せません。

驚異的な能力を持った野生動物達(例えば時速400キロに迫る速度で急降下するハヤブサ等)を言葉で表現する際に、〈神が創造された〉と言う形容詞が使われる事が有ります。

この様な事実を知ると、人も例外ではないと私個人は思ってしまうのですが…

 

最後に皆さんからご質問を頂きそうなスポーツ競技や武道、お稽古事等で良く言われる体幹部の中心軸のお話しについても少し触れさせて頂きたいと思います。

 

 結論から先に申し上げますと、当施設では身体の中心に軸をイメージして動作(トレーニング)をする様な事は有りません。

私の空手の動きを見た第三者の方から、軸が立っていると言うご評価を頂いた経験が有りますが、私自身は中心軸をイメージして身体を操作している感覚は殆ど有りません。

現実には、身体の中心に軸の様な器官や臓器(背骨は中心軸その物では有りません)が有る訳ではなく、中心軸とは人間の思考の中でイメージされる概念です(武道等で言われる丹田等も同様で、亡くなられた方を解剖しても、その様な器官や臓器が現れる訳では有りません)。

 私達人間は、概念を通して現象を見る事の出来る地球上で唯一の生物と言われています。

 目の前で起こっている現象を理解しようとする場合、用いる概念によって見え方は異なり、場合により解釈は全く違う物に成ってしまいます。

当施設では、概念の扱いには特に注意を払っています。

 身体や動作の状態がある程度求められているので有れば、中心軸は結果的に現れる物で、また効率的な動作を求めて頂く上では、動いて移動すべき物で有ると当施設では捉えています。

 試しに行って頂きたいのですが、立位で身体の中心に垂直な軸をイメージして、軸を前後左右に傾斜させない様にして動作(身体を移動)してみて下さい。

 如何でしょうか?

 非常に動作(移動)し難い事が分かります(無理に動こうと思えば、脚だけを使った非常に窮屈で不自然な動作⦅移動⦆に成ってしまいます)。

 次は垂直な中心軸を身体を動かしたい方向へ傾斜(前傾)させてみて下さい。

 如何でしょう?

 無意識に進行方向側に有る足が踏み出され、更にその動きに誘導される様に身体重心位置が、脚が踏み出された方向へ移動する事が解ります。

 実は中心軸が傾斜(前傾)して身体のバランスが変化した際に、進行方向側に有る脚を踏み出して新しいバランスを拾い、更に身体重心位置を進行方向(脚を踏み出した方向)へ送る無意識下の脳や神経系統の働き(仕組み)が我々人の身体には備わっています(医療等の専門分野では姿勢反射と言う言葉で説明をされています)。

 中心軸の傾斜に誘導されて、身体重心位置が進行方向へ移動して行く最終局面で、傾斜した軸が進行方向に有る軸脚に寄せられながら、次の動作で地面反力(床反力)を効率良く利用する為に再び垂直(重力線と同一方向)な状態(動作前と同じ立位⦅姿勢⦆の状態)に戻されます。

  以上の様な中心軸の捉え方をして頂きますと、今回お話しをさせて頂きました背骨をうねらせる様な動作や、身体重心位置をサイクロイド曲線上で移動させる様な動作と中心軸の概念が重なり合って融合し、矛盾や対立が生じないと思われます。

 スポーツ競技や武道、お稽古事等には固有(特殊)な目的が一部有り、効率的な身体の扱い方だけでは語れない部分が有ると思われます。

 今回の中心軸に対する捉え方は、あくまでも、身体の効率的な扱い方を求めている当施設としての見解です。

 

 解析技術の進歩や軍事技術の一部転用等により、スポーツ競技技術の進展は留まる所を知りません。

 スポーツ競技は勝負事です。

現役のトップ選手の先端技術が公開される様な事例は余りなく、インターネット等で多くの方に知られる様に成るのは、解析が進み時間が経ってからの事です。

 相手が持っていない独自の理論や技術なくしては、高いレベルでは勝負に成らない印象を受けます。

 

 頸椎の側屈と回旋、胸椎の伸展と屈曲及び側屈と回旋、腰椎の側屈と回旋、人の背骨のこれらの動きには、椎骨(背骨を構成する骨の単位)の形状等その他の理由からある運動連鎖の法則が有り(医療等の分野ではカップリングモーションと言う言葉で説明をされています)、前後左右への動作バランスと大きな関連性が有ります。

 この背骨の正しい(複雑な)運動連鎖が引き出されていない為に、背骨の歪みが生じ、首や肩のトラブル、腰痛症等を引き起こしている事例が非常に多く見られます。

 当施設のトレーニングでは、首や肩のトラブル、椎間板ヘルニアや脊椎管狭窄症等、腰痛症が改善される方が多い事も特徴ですが、背骨の正しい(複雑な)運動連鎖が引き出される事も大きな要因です。

 

 度々お話しをさせて頂いていますが、歩行動作にはその方の動作の傾向が現れ、スポーツ競技のパフォーマンスや健康状態にも影響を与えています。

医療等の分野では、歩行動作の身体重心位置の動きを倒立振子運動に例えた分析方法(倒立振子理論)で分析をしています。

当施設では、従来の倒立振子理論では足底部側に有った振子の回転軸を、一部動作の場面で胸腰椎移行部側へ変更をしています(倒立振子から通常の振子⦅サイクロイド振子⦆形式へ変更)。

その変更により、身体重心位置のより効率的な移動や加速運動の分析評価を可能としました。

当施設の4Dモーショントレーニングシステムは、その分析理論を具現化した運動(トレーニング)法です。

 

一般的に身体に負担のない運動とは、扱う重りの重量や反復回数、距離や時間の長さ(例=ランニングやウォーキング)等、量の部分を少なくした物を指す事が多い様です。

当施設では、身体に負担が掛かる要因は量ではなく、身体の使われ方の効率(違い)に有ると考えています。

スポーツ競技では、効率の悪い身体の使われ方は成績不振や怪我等に直結します。

高いレベルで競技しようと思うので有れば、身体の使われ方の効率を徹底的に追及する必要性が生じます。

運動時に必要以上に心拍数や血圧が上昇してしまったり(身体が苦しくなる事)、一部の関節や筋肉に大きなストレスが掛かってしまう様な状態(故障や痛みが出る様な状態)は、身体の使われ方の効率が悪い代表的な例です。

それらはトレーニングのやり方により大きく改善をする事が出来ます。

 

当施設では、トップアスリートのトレーニング技術をフィードバック(モータースポーツで培われた先端技術が市販車に広くフィードバックされ、ドライバーの安全や運転のしやすさ等に広く貢献している事と似たイメージです)する事により、特にご高齢の方につきましては、体力を維持すると言う方向性だけではなく、身体能力の向上を目指してトレーニングをして頂く事が可能と成りました。

敷居は非常に低く、親しみやすさでも前例のないトレーニングです。

従来の運動法ではお身体のご負担が大きくトレーニングの継続を断念、また望む様な効果を得られなかった方々に是非お取り組み頂き、ご評価を仰ぎたいと思います。

 

*トレーニング効果には個人差が有ります。

 

 

*タイトルの「自然は曲線を創り、人間は直線を創る」は日本人として初めてノーベル物理学賞を受賞された湯川秀樹博士が残された言葉だそうです。

アルベルト・アインシュタイン博士との出会いから、晩年は平和運動にも尽力をされた湯川博士ですが、その言葉に込められた深遠な意味を考えてみたりもします。

直線的な力は必ず何処かで衝突しますが、曲線的な力が衝突する事は非常に低確率です。

直線とは違い、曲線には様々な形が有り、その力の性質も多様です。

地面反力(床反力)等の衝撃を上手に利用(吸収では有りません)出来る様に成る為、スポーツ競技やウォーキング等での怪我(身体を痛める事)が少なく成る。

身体が動かしやすく成る為、自由な動作表現(個性を発揮する事)が出来る。

以上は、当施設のトレーニングの効果を表現している言葉ですが、それらの言葉と今回のお話しのテーマをイメージし、タイトルの言葉として引用をさせて頂きました。