最も難しい事(感性と概念の狭間で…)

 

以前の私は、自身が取り組んでいる競技(武道や格闘技)以外には余り関心が持てないタイプの人間でした。

 以前通わせて頂いたトレーニングジムの本部施設では、日本人野手として初めてアメリカのメジャーリーグに挑戦をされ、歴史的な偉業を成し遂げている現役選手の方がトレーニングをされていらっしゃいました。

 

私が子供の頃も野球は非常に人気の有るスポーツで、今の様に選択肢も多くない時代でしたので、殆どの男子が地区の少年野球チームへ参加していた様に記憶しています。

 私は、家庭の事情で住まいが校区から離れており、交通の関係で地区の少年野球チームへ参加出来たのは僅か一年足らずでした。

長い間、野球の話しの輪に入れなかった事等も影響し、子供の頃から野球は嫌いなスポーツに成っていました(不思議なもので現在ではその様な感情はすっかり消えてなくなりました)。

 

私がそのジムへ通い始めたのは40代に入ってからですが、通い始めた当初も野球が嫌いな(認めたくない屈折した)気持は基本的に変わっておりませんでしたので、今思い返しても非常に不遜で恥ずかしい思いですが、多くの方達の様にその選手の方に憧れてそのジムへ通い始めた訳では有りません。

 

その選手の方は野球を超える様な国民的スーパースターでしたので、そのジムでトレーニングをしていますと否が応でも情報が入り、その方のトレーニングの内容や技術練習の一端を知る事に成ります。

インターネット等部外者からの情報は身勝手で的外れな物も非常に多く、閉口した記憶が有ります。

 

その当時、一部のメジャーリーガーの身体能力を向上させる為の薬物(筋力増強剤等)の使用は大きな話題と成っていていました。

 歴史的偉業を成し遂げた選手の中にも、薬物の使用が疑われ、晩節を汚す選手も現れました。

 

元々が大きな身体をした彼等です。

薬物を使用して、怪物の様な身体を手に入れた一部の選手達。

 勿論、その日本人選手の方は薬物等は一切使っておりません。

80キロに満たないメジャーリーガーとしては非常に小柄な身体で打って、走って、投げて、全ての局面で負ける事なくプレイし、偉大な記録をメジャーリーグの歴史に刻まれました。

 

バッターボックスに立つその方の横顔を拝見していますと、そこから感じられる闘志は、競技する相手だけではなく、何か見えない空間にも向けられている様に私には感じられました。

 

野茂英雄投手は日本人メジャーリーガーに道を拓いた偉大なパイオニア(開拓者)でしたが、その方も野手としては日本人メジャーリーガーのパイオニアです。

後に続くで有ろう日本のプロ野球選手達、その方を見て夢を追いプロ野球選手を目指している子供達、常識を覆す様な前例のない取り組みやトレーニングをサポートしてくれる仲間達、多くの方々の想いを背負って見えない何かと戦っている。

私の目にはその様に映りました。

 

当施設のトレーニングは、自身の動作を深く掘り下げて行く所に大きな特徴が有ります。

 その選手の方はバッティングの技術を毎年のように変えていらっしゃいました。

成績が良くても悪くても変わりなくそうされていた事は非常に印象的でした。

 それは他との優劣を争う競争と言う概念ではなく、自身の感覚や感性を取り戻す取り組みで有る様に私の目には映りました。

 

 競争と言う概念には限界が有る様に感じます。

 一部のメジャーリーガーの薬物の使用も、その限界を超えてしまった何かと言えるのかも知れません。

 

 私が語るのも何ですが、自身を深く掘り下げ、感性や感覚を取り戻して行く取り組みには、完璧な到達点や限界はない様に感じます。

 

有名なダーウィンの進化論のお話しが有ります。

生物が生存競争の末生き残りを懸け進化、また自然淘汰されて来たと言う捉え方は古く、共生が現在の最先端の生物学者の方達の見解やキーワードに成るそうです。

 

進化論に対する従来の古い解釈を理解する為には、その当時の時代背景に有った宗教観等の概念を深く理解する必要が有る様です。

人間は概念を通して物事を見る事の出来る地球上で唯一の生物と言われています。

用いる概念が違う物で有れば、そこから生まれる解釈は全く違う物に成ってしまいます。

 

以前、当コラムでもお話をさせて頂きました認定NPO法人「日本を美しくする会」さんでは、道路や公園等の野外公共施設の清掃活動にも積極的に取り組まれていらっしゃいましたが、落ち葉や泥を掃除される際、そこに住むミミズやバクテリアを殺したり減らさない様に細心の注意を払い掃除されている事を知り、強烈な印象を受けた経験が有ります。

「日本を美しくする会」相談役の鍵山秀三郎先生曰く、ミミズやバクテリアが住めない様な土地には人も住む事が出来なく成ってしまうのだそうです。

概念で捉えればミミズやバクテリアと人間の間には優劣が生まれ、感性で捉えれば優劣は消えてなく成ると言う意味だそうです。

 

私達人間は、言葉や文字等、子供の頃から概念を中心に学習をして育って来ました。

物事を捉える場合も多くは概念を通して理解をしています。

逆説的ですがそこに私達人間の一つの限界が有ると言えるのかも知れません。

 

デコピンは、今日本で一番有名なワンちゃんだと思います。

言わずと知れたメジャーリーガーの大谷翔平選手がご家族の様に大切にされている愛犬です。

 今回お話をさせて頂いている野手の方も、現役時代一休と言う柴犬と一緒に暮らしていらっしゃいました。

 言葉や文字を概念として認識出来ないデコピンと一休。

 野球を極めようとされているお二方には、それぞれご家族の様に大切にされている愛犬が傍らにいて、私にはそれが偶然だとは思えず、それはお二人の感性と何か大きな関係が有る様に感じられるのですが、皆さんはどう思われますでしょうか?

 

トレーニングやスポーツ競技の指導等に携わらせて頂きますと、エネルギーの小さな方達と出会う機会が多く有ります。

人の良い気持ちの優しい方達との出会いと言い換えても良いかも知れません。

スポーツ競技で薬物を使われる様な方達は、どの様な手段を使ってでも勝利を奪い取りたいと願う大きな負のエネルギーを持った方達です。

多くの方々をマイナスの方向へ引きずり込む、その様なエネルギーを持った方達が主役に成る様な事は有っては成らないと思います。

 

自身を深く掘り下げ、感性や感覚を取り戻して行く取り組みの中で、様々な気付きや出会いが生まれ、小さな正のエネルギーが周囲を巻き込み強く大きく成長をして行く。

約束された成功を自ら手放してでも、譲れない何かが有るから向かって行く。

 

メジャーリーグに歴史を刻んだその選手の方を、皆さんより少しだけ内側から見て感じた私の印象です。

 

ジムでは次代を担う若い方達と接する様な機会も徐々に増えて来ました。

時代が今迄にない程大きな転換期に有る事は、様々な分野で多くの方々が感じていらっしゃる事だと思われます。

私は勿論教育者等でもなく、単なる一介のトレーナーに過ぎません。

大上段に構えて理想を述べる様な積もりは毛頭有りませんが、トレーニングの技術的な面だけを追っている様では何かが欠けている様にも感じます。

次代を担う若い方達に最も期待している者の一人として、おこがましい様ですが、お伝え出来る事を身の丈成りに発信させて頂ければと思っています。