(筋力に対する様々な誤解/認識の先に広がっている景色を見る為に)
今回のコラムでは、当施設の筋力に対する考え方について、少し触れさせて頂ければと思います。
突然ですが、皆さんはデコピンはご存じでしょうか?
国際的アイドル?で有る大谷翔平選手の愛犬の事ではございません。(笑)
手の親指で人差し指や中指を丸めておでこをはじくあの痛いデコピンの事です。
この場で皆さんに行って頂きたいのですが、親指を使わずにデコピンをしてみて下さい。
如何でしょう?
全力で行ってもおでこは全然痛く有りません。
むしろ親指なしでは人差し指や中指を強くはじく事が出来ません。
筋肉はバネとイメージするとその性質を理解して頂き易いかと思います。
筋肉は伸ばされて短縮する時に大きな力を発揮する事が、医療、またスポーツの分野等でも知られています。
親指を使って人差し指や中指を伸展させる(伸ばす)筋肉を伸張させて(伸ばして)、張力(弾性=バネの様な性質)を引き出す事で、力の弱い小さな筋肉で有っても大きな力を発揮する事が出来る訳です。
ではデコピンの様に、体幹部の大きな筋肉を中心に、全身の筋肉を連動させながら伸張させて張力を引き出したらどう成るでしょう?
非常に大きな力を発揮出来そうな事はイメージして頂けるのではないかと思います。
その様な身体の使い方で大きな力を発揮しているシーンはスポーツ競技等でも多く見られます。
身体の使い方が強調されていて分かり易い例を挙げさせて頂きますと、野球の大谷翔平選手の投球動作、ボクシングの井上尚弥選手の左フックの動作、北口榛花選手のやり投げ動作、スピードスケートの小平奈緒選手のリンクをキックする動作等々非常に多くの例を見る事が出来ます。
実はその様な身体(筋肉)の使い方は、トップアスリートに固有な特殊な動作では有りません。
その場で軽く飛び上がる様な日常的に見られる動作でも、殆どの方が無意識に、一旦地面方向に沈み込み、ジャンプする為の筋肉の張力を引き出しています。
私達の歩行動作の脚の筋活動等も、詳しく観察をして頂けますと、その様な身体の使われ方で大きな筋力の発揮に対応しています(歩行動作で片足に掛かる瞬間的な負荷は、その方の体重の約三倍にも成ると言われています)。
筋肉の張力を引き出す動作では、力を込めていきなり筋肉を収縮させる様な動作(デコピンで言えば親指を使わない方のやり方≒一般的に広く普及している力を込め続ける筋力トレーニングの様な動作)と比較して、急激な心拍数の増加や血圧の上昇を伴わない事等も大きな特徴です(呼吸循環器系統の機能にも非常に調和した動作です)。
大きな力を発揮する事が出来る上、身体も非常に楽です(親指を使わずにデコピンを強く行って頂きますと、動かす指は徐々に疲れて来ますが、親指を使って筋肉の張力を引き出すデコピンでは動かす指は中々疲れません=過去に陸上競技の1万メートル走の世界記録保持者の方で、100メートルを10秒台で走る選手の方がいらっしゃいましたが、遅筋や速筋等の持って生まれた筋肉の割合云々よりも、どの様な動作で走るかが重要で有ると言われている所以です)。
親指を使うデコピンの様に筋肉の張力を引き出す動作では、意識的に力を込めて筋肉を収縮させる動作等と比較して、その筋肉の短縮は反射的な加速を伴います(バネを長く伸ばして突然手を放しますと加速を伴い縮む事と似た現象です)。
デコピンが痛いのは、この筋肉の加速的な短縮スピードも大きく係っています。
動作に対する考察は複雑な為、あくまでも基本的な原理のご説明に成りますが、指がおでこへ移動する際、指を伸ばす筋力が2倍に成ると指の当たる衝撃は2倍に成りますが、指が移動する速度が2倍に成ると衝撃は4倍に成ります(高校生の物理の授業を思い出して下さい)。
人の動作時に於けるパワーを考える上では、筋肉が発揮する収縮力だけではなく、加速度と言う概念が必要不可欠です。
歩行動作や日常生活動作、またスポーツ競技等の動作では身体の移動が伴います。
その場で物を持ち上げる様な動作でも、詳しく観察をして頂けますと、両足の間で身体の移動が伴っています。
筋肉の短縮スピードは、身体の移動速度にも大きく影響をしています。
身体の移動速度が大きく成る事は、その場で物を持ち上げる力を大きくする事等にも有利に働きます(トップアスリートの方は総じて動作スピード、身体の移動速度が速い方が多いです)。
人の運動時に発揮される力とは、筋肉の収縮力の事だけを指している訳では有りません。
(*今回のコラムでは、一般的な筋力トレーニングの様に意識的に力を込めて行う等速的な筋収縮を収縮、親指を使うデコピンや当施設のトレーニング動作の様に、慣性力や無意識下の反射機能等を応用した加速的な筋収縮を短縮と呼び使い分けています)
ここで少し以前のコラムのおさらいをさせて頂きたいと思います。
脳や神経系統と筋肉や腱との間には、伸ばされた筋肉を加速的に短縮させる為の機能(伸張反射や姿勢反射等の無意識下の機能)が備わっていました。
人の運動(身体の移動)時に動員される関節はその多くが第三の梃子構造でした。
第三の梃子とは大きな力を発揮する事に有利な構造の梃子ではなく、鞭の様に先端を加速させる事に有利な構造の梃子でした。
人の運動(動作)の基本は歩行動作で有ると言うお話も以前させて頂きました。
医療等の分野では人の歩行動作の特性を物理的に捉え、歩行時の身体重心位置の運動(移動)を倒立振子運動に例えて評価していると言うお話しもさせて頂きました。
倒立振子とは、簡単にご説明をさせて頂ければ、重力加速度(重力)を利用して倒れる棒の事でした。
感の良い方はそろそろお気付きでしょうか?
そうです、筋肉の張力(加速的な短縮)を引き出す身体の使い方は、人の動作を制御している脳や神経系統の機能、骨格等の身体の作り、更に人の運動特性等から見ましても非常に適合しており合理的です。
キーワードは重力加速度への身体の適応です。
生命誕生以前から地球上には重力が存在し、人は生物として長い間重力下で進化を遂げて来ました。
重力に適応、また重力を利用する事に有利な身体に進化を遂げて来たと捉える事が科学的に見てもより自然です。
楽器や乗り物を始め多くの道具は、その特性を理解し、特性に合わせた使い方をする事で100パーセント、またはそれ以上の性能を発揮する事が可能と言われています。
当施設では人の身体も同様と捉え、身体の仕組みや構造、また運動特性を無視した性質の筋肉を奢っても、本来備えている身体能力を100パーセント発揮させたり、更に高い身体パフォーマンスを求める事は難しいと考えています。
以上の様な理由から、当施設では筋肉を伸張させて張力を引き出す方向性の取り組みが基本と成り、トレーニング理論もそれ等を基に構築をされています(筋肉を一旦伸張させてから短縮をさせますので、身体の柔軟性や血流⦅ふくらはぎで有名な筋肉のポンプ作用⦆等も非常に高まります)。
次は少し違った観点から筋力について考察をしてみましょう。
人体には400種類以上の骨格筋が有ると言われています。
ある動作を行おうと思えば、その反対の動作を行う為の筋肉が必ず存在しています。
力を込め続ける様ないわゆる力む動作では、行おうと思っている動作と反対の動作を行う為の筋肉も強く収縮している状態です(専門用語では拮抗筋が同時収縮する状態と言います)。
これは自動車に例えればパーキングブレーキを引いたままアクセルを踏み込んでいる様な状態です。
本人が力感を感じている割に、仕事をする為に発揮されている力は弱く、ロスも有る為、疲れ易い動作に成る事はイメージして頂けるのではないかと思います。
(余談ですが、力の大きさを競い合うイメージの強いパワーリフティング競技でさえ、如何に力感なく挙げる事が出来るかが、取り組みの一つの方向性に成るそうです)
当施設のトレーニングでは筋肉の張力を引き出す事が基本ですが、 張力を引き出す取り組みが、同時に無駄な力み(拮抗筋の同時収縮)を防ぐ取り組みにも繋がっています。
(専門的な言葉を使ってご説明をさせて頂ければ、伸張反射機能⦅張力⦆が引き出されますと、神経的に相反抑制⦅拮抗筋の同時収縮を防ぐ⦆機能も引き出されると言うご説明に成るのですが、これ以上のご説明は、専門的な方向けのお話しに成ってしまいますので、ご質問がお有りの方は、直接トレーナー相星迄お問い合わせを頂ければと思います)
人の身体の持っている特性を生かし、その能力を最大限に発揮させる為には、全身の筋肉を満遍なく発達させれば良いと言う訳でも有りません。
発達のバランスと言う観点も必要不可欠です。
人は現在の様な姿で、突然地球上に現れた訳では有りません(宇宙から突然飛来した証拠が見つかればお話しは別ですが…⦅笑⦆)。
一般的な理解としては、生物として進化を遂げて来た過程で、四足歩行の動物達の身体の構造等も受け継いでいます。
多くの四足歩行の動物達の様に、骨格には頭蓋骨や背骨が有り、前脚(人で言えば腕)や後脚も二本ずつで有り、肩甲骨や骨盤も備えています。
四足歩行の動物達の疾走している動画を見て頂くと分かり易いのですが、前脚も後脚も引く動作ではなく、地面を押す時に全身を連動させて大きな力を発揮する身体(筋肉や骨格)の仕組みです。
狩り等で獲物を追い駆け疾走(身体を移動)する時(草食動物等で有れば天敵から逃げる時)に、地面を押して最大限に力を発揮する為の前脚や後脚、及び身体の構造と言う事が出来るかと思います。
引く動作も行わない事は無いのですが、多くは大きな力を必要としない細かな作業の為の動作です(人で言えば食物を口へ運ぶ動作等=箸やスプーン等で食物を口へ運ぶ為に強力な力は必要では有りません)。
人でご説明をさせて頂ければ、引く動作に関係する特に身体の前面に有る筋肉を過度に発達させてしまいますと、全身の動作(運動)バランスは崩れ、例えばスポーツ競技等で有れば、パフォーマンスの停滞や低下を招き、時には怪我等も誘発してしまいます。
(動作と筋肉の発達バランスについてのご説明は少し複雑です、詳細は直接ご質問を頂くか、ジムで直接やり取りをさせて頂く事をお勧め致します)
全身の筋肉を満遍なく隅々まで発達させるボディービルやボディーメイクと言う競技が有ります。
競技としてはしっかりと確立もされていて広く認知もされています。
ボディービルの世界最高峰のオリンピア大会で、日本人として初めて優勝を果たされた山岸秀匡選手は、私もご尊敬申し上げる大好きな選手です。
ボディービル競技で使われている基本的なトレーニングテクニックとしては以下の様な物が有ります。
・身体の連動性を使わない(目的とする筋肉を最大限に刺激する為=連動性を使うと目的とする筋肉に掛かる負荷⦅刺激⦆が減少してしまう)
・筋肉が伸ばされる方向へは余り動かさない(最近は研究されて来ていて少し変わり始めている部分も有る様です)
・引く動作を多用する(主に身体の前面の目に付き易い筋肉を発達させる為)
・反動を大きく使わない(重心移動を先行させたり慣性力を使ってしまいますと、目的とする筋肉に掛かる負荷が低下してしまい、刺激が弱く成ってしまう為)
以上は当コラムでお話しをさせて頂いている、運動効率を高める当施設のトレーニングとは真逆の方向性です。
ボディビルのトレーニングでは、身体の運動効率を徹底的に下げる事に因り、筋肉がそれ等を補おうとして過度に刺激され、発達が促される訳です(自動車で例えれば、パーキングブレーキを引いたままエンジンを吹かしている様なイメージです=エンジン⦅人で言えば筋肉⦆には大きな負担⦅負荷⦆が掛かります)。
ボディビルに於いては、これらのトレーニングテクニックは勿論正解なのですが、日常生活を快適(スムーズ)に過ごせる身体を手に入れたり、スポーツ競技パフォーマンスの向上等を目的するトレーニングでは、非効率な身体の使い方やその為の筋肉が身に付いてしまいますので大きな問題です(様々な競技が有りますが、トップアスリートの方でボディービルダーの様な体つきの方は殆どいらっしゃいません/行うトレーニング動作その物が身に付く事がトレーニングの大原則です=筋肉の獲得と動作の獲得を別々に分けて考える事は出来ません)。
ウエイトトレーニングが本格的に日本に導入されたのは、1964年に開催された東京オリンピック以降だと言われています。
その当時のトレーニング機器や指導法は、基本的にはボディビル由来の物が多かった様です。
半世紀以上経った現在でも、ウエイトトレーニングに対する認識は、基本的な部分で変わっておらず、多くの施設で使用されているトレーニング機器や指導法には、当時の認識が未だに色濃く反映されています。
当コラムを読んで頂いている方で自動車を運転される方も多いと思います。
自動車にはそれぞれその方の好みが有ると思います。
スポーツカーの様に走る性能の高い車を好まれる様な方、荷物が沢山積めたり、人を多く乗せる事が出来る実用的な車を好まれる様な方、デザイン重視のお洒落な車を好まれる様な方、等々自動車の好みも人それぞれだと思います。
自動車の種類と同様に、一口にトレーニングジムと言いましても、そこで行われているトレーニングの内容は各々異なり、その効果も様々です。
当コラムを読んで頂いている皆さんが、ご自身の求めているトレーニングに出会える事を心よりお祈りしています。